目の前の人が赤いカーネーションを見せて
「この花は赤いですよね、ちがいますか?」と訊いたなら
あなたは、もちろん「ええ、赤いですよ」と答えるだろう。
わたしだって、本当はそう答えたかった。
小学校6年の担任は土井先生(40代、男性)だった。
算数の時間、カッカッカと黒板にチョークで
例問を解いてみせ、「ちがいますか?」と生徒に返事を求める。
もちろんちがっているはずはないが、何と答えてよいものか?
クラスのみんなは、くぐもった声で「はい…」なんて返事をする。
「ちがいますか」と訊かれて「はい」と答えれば
文法的には「ちがう」ことになる。
わたしは「ちがいません」と答えて文法を順守した。
何度もそれをやって、「変な答え方をするな」とにらまれた。
講堂での全校集会で、壇上に立つ先生が「トイレのスリッパを
元の位置にもどさない生徒がいたらどうするか」、全生徒に問いかけた。
「追いかけていって注意する」で挙手したのは、わたし1人で
帰宅して2歳下の妹に「恥ずかしかった」といわれた。
中学校のとき、国語の玉置先生(40代、女性)は
宿題をしてこなかった数人を立たせ、理由をただした。
忘れたのか、問題が難しかったのか、やる気がなかったのか。
わたしは、やる気がなかったと答え、先生は職員室にもどっていった。
高校3年のとき、理系コースの2クラスはほとんどが男子で
仲が良くてフマジメでオチャラケ体質だった。
教師が板書している間に紙飛行機を飛ばすと、板書しているその黒板に
トンと当たって落ちた。
物理の大林先生(30代、男性)が、目を吊り上げ
「誰だ、男らしく正直にいえ」なんて殺し文句を向けてきたので
わたしは起立して名乗り出た。
自分のクラスの授業が自習になったので、となりのクラスにまぎれこんで
そんなイタズラをしたのだが、担任でもあった大林先生はあとで
「あいつ、このクラスだったか?」と、つぶやいたらしい。
バカ正直とはもちろんわたしのことで
じつは、もっとスゴイこともあったのだが
それだけはちょっと悔しくて、いまだに白状する勇気がない。