…読者の中には、
「しかし、オオカミを日本で野放しにしたら、人を襲うんじゃないか」と思っている方が、けっこういるだろう。
現代の日本人にそう思う人が多いのは、「赤ずきんちゃん」や「三匹の仔豚」といった童話の影響が大きいようだ。オオカミが悪役の童話が、オオカミ原体験になっている。だが、そういった童話は、昔のヨーロッパ人の偏った概念が創り出したものだ。
生態学の研究が進むにつれ、本物のオオカミは、童話などのイメージとは大分ちがうことがわかってきている。特に人間に対しては、現実のオオカミは臆病なくらい慎重に対応する。
それも当然かも知れない。もともと、オオカミより人間のほうが狂暴なのだ。何しろ、日本に限らず、世界のあちこちでオオカミを絶滅に追いやってきたのは人間なのだから。…『日本の森にオオカミの群れを放て』吉家世洋/ビイング・ネット・プレス
【コメント】本書の全体の趣旨は、おおむねタイトルに表れているといえよう。そしてその目的は、森の生態系を健全に維持すること、であるらしい。その実効性については、何かを語る専門知識を私はもたない。しかし、引用部に書かれたことには、力強くうなずいてしまう。私にとってのオオカミの印象は、まさに童話がもたらしたものだ。日本各地にオオカミを祭る神社があるという。そして「オオカミ」という、その名称。すでに日本では絶滅したとされる、神秘的な動物である。