…自分は旧知の間柄である、マル暴刑事のUさんに手紙を書いた。実はUさん、自分がアメリカの刑務所に入れられてからずっと、月に一度は必ず手紙を寄越してくれていた。訛りのキツい英語が飛び交う刑務所内で、Uさんからの日本語の手紙を読むことは、心の支えとなっていた。
「Uさん、いつも世話ばかりかけて申し訳ありません。実は自分の息子がグレてしまい、母親を困らせているようです。自分に代わって様子を見に行ってもらえませんでしょうか」
自分はUさんに手紙を書いた。その手紙を受け取ってからのUさんの行動は早かった。早速、別れた女房の家に出向くと、息子に面と向かって説教した。
「お前がKEIの息子か? グレてお母さんを困らせてるらしいな。いいか、このまま刑務所に行くような人間になるか? それとも真面目に学校に通うか? いますぐ自分で決めろ!」…『アメリカ極悪刑務所を生き抜いた日本人』(KEI、東京キララ社)より一部を抜粋
【コメント】
タイトルと表紙を見れば、著者がアウトローと呼ばれる人間であったことは、一目瞭然でしょう。上の抜粋箇所には、三人の男が登場しています。著者と息子と、著者を少年のころから捕えたり諭したりしたというU刑事です。このU刑事が、著者に対しどのような思いを持ち続けてきたのか、私には想像が及びません。及ばなくても、そういう人間関係が成り立つことを驚くことはできます。著者の息子は、起業して今は経営者になっているようです。本を読むことには、知識を横に広げるという、よく注目されがちな効果があります。その一方で、人間というものを深く掘り下げて再認識する効果もあります。本も人間も、なかなか味わい深いものではありませんか。