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『私はどうして販売外交に成功したか』フランク・ベトガー

……「ええ、非常に調子がいいようです」

「そうでしたら、この健康診断こそ、今すぐおやりにならなければならない。いちばん大事なことだとお考えになりませんか」

「ベトガーさん、あなたはだれのために時間の約束をなさったのですか?」

「あなたのためにしました」というと、ブースは思案の首を傾けて、煙草に火をつけた。しばらく考えた末に、静かに立ち上がって、ちょっと時計をのぞいてみて、窓のほうへ歩いて行った。そして帽子掛から帽子をとると、私の方を振り向いて、「さあ、行きましょう」といった。

 健康診断がすっかり済んでしまうと、ブースと私は急に百年の知己にでもなったかのように思えた。彼はむりに私を誘って、昼食に連れて行った。食事を始めると、とたんに彼は笑いだして、「ときに君の会社はどこだったけね」と聞いたものである。……『私はどうして販売外交に成功したか』(フランク・ベトガー/ダイヤモンド社)より抜粋

 

【コメント】

私は大学を卒業してすぐ、アルバイト求人誌で見つけた訪問販売の仕事に飛び込みました。大学で遊びほうけたので、自分で自分にヤキを入れるような気だったかと思います。大きなカバンをもって、見ず知らずの人の門扉のベルを押す日々。何かのヒントを得ようと、セールスマンの本を読みあさったなかの1冊です。著者は生命保険のセールスマンで、ねらいをさだめた見込み客のために、健康診断の予約をして乗り込んだ一幕が書かれてあります。実際の行動を真似たことはありませんが、完ぺきな準備こそがセールスに余裕をもたらすという原則を学んだ気がします。その原則は今も役立っているかと問われたなら、私はYESと即答するでしょう。